家は30年経てば建て替えという、なんとなく常識になっている考え方。
私たちは日々建築の仕事をする中でこの常識に疑問を感じ、
建物の新しい寿命や価値がある事に気づきました。
このことを伝えていきたいと日々いろいろな角度から考え、
使い捨ての文化ではなく「持続化できる家」を創るための「知恵」をこのコーナーでお届けしていきます!
第6回目は、家の中の話題から離れて家の外・お庭の話です。
じつは庭って家の中以上に人の目に触れるもの。
家の第一印象を左右する大切な要素でもありますね。
住宅街を歩いていると、「うわぁ、荒れちゃってるな。空き家?」と心配になるようなお宅を見かけます。お子さんが独立し、高齢のご両親がお住まいのこともあれば、そのご両親が亡くなり誰も住まずに放置されている家も。。。こうなると、取り壊して土地として売るか、完全に建て直して住むしかないのかな、と素人は思います。でもプロに相談すれば、家を壊したり建て替えたりせずに生まれ変わらせることが可能だそうです!
そこで今回は庭工房の石川代表をお迎えし、ホームスタッフ の斉藤・堀越とともに庭談義の花を咲かせていただきました♪
■昔は一軒家を持つ人にとって「庭造り」って憧れというか、家と同じくらいこだわりがあったと思うのですが、現在の庭事情はいかがですか?
石川さん:かつては広い敷地に家を建てる人が多かったので、庭は一種の「趣味」で贅沢品でした。それもあり京都や鎌倉の寺や神社のような「和風」の庭を、完成した形に作り込むことが多かったです。「眺めて楽しむ庭」ですね。ゆったりした時間を楽しむ余裕があったんでしょうね。
齋藤:いまは、敷地面積も狭くなり、より効率を求められるようになりましたね。
石川さん:そうなんです。限られたスペースを上手に活用したいという方が増えました。家自体も和風建築より洋風建築が主流ですから、必然的に庭も洋風が多くなり、眺めるより「家族で楽しめる庭」づくりのニーズが高まっています。
堀越:例えばどんな要望が多いですか?
石川さん:ウッドデッキで家族や友人とバーベキューをしたいとか、子供が小さいので夏場にビニールプールやパラソルを出して遊ばせたいとか。お料理が好きな方だと、イングリッシュガーデン風にしてミントやローズマリーなどのハーブを育てたいとか。
齋藤:確かにそういうニーズは高まっていますね。昔よりも腐りにくいウッドデッキや、手入れがラクで長持ちする建材が増えていますから、ますます今後は需要がありそうです。
石川さん:でも和風の庭が減っているのは残念です…。「風流」を楽しむ文化がなくなるのも寂しいし、和風の庭づくりには伝統的な決まりごとも多く、職人にその知識や技術が継承されなくなる心配もあります。
■お客様と庭づくりをするにあたり、気をつけていることや大切にしていることはありますか?
石川さん:庭は何十年もかけて育ち変化していくことをお伝えしています。それがご家族の成長や変化と合っているかどうかが大事なポイントなので。
堀越:施工したらゴール、ではなくスタートなんですね。具体的にはどういう事例がありますか?
石川さん:例えば、高校生のお子さんがいるご家庭の庭づくりで、敷地いっぱいに庭を作りフェンスで囲って欲しいと言われたとします。でも5年後にお子さんが車に乗るようになるかもしれません。そうなるとフェンスでガチガチに囲うのではなく、将来車庫を作れるように融通のきく形の庭づくりをご提案したりします。
齋藤:お子さんの誕生記念にシンボルツリーを植えたいという要望も多いですよね。
石川さん:そうですね。ただ、木に詳しくない方もいらっしゃるので、その木が何年でどのくらい大きく、どんな形に育つのか、想像が及ばない場合も多い。想定外の巨木に育ち、結局切り倒すことになったら悲しいですから、庭がどのように変化していくかという未来予想図は、写真などを使いながら丁寧にお伝えするようにしています。
■庭が荒れてしまったり、様々な条件により思い通りの庭づくりができない、と諦めている方は多いと思います。
石川さん:6年前「賃貸の家だけどウッドデッキを設置したい」と相談されて施工したお宅から、ちょうど先日連絡がありました。6年経ち引っ越す事になったので原状回復して欲しいとのことで。
そのご家族のお子さんが、小学校に上がるタイミングでウッドデッキを作ったんですよね。それから6年間、放課後にはよくお友達が集まってウッドデッキで遊んだり、おばあちゃんたちが来てみんなで食事したり、いろんな思い出ができましたと。自分たちが手掛けたものが、お客様の歴史や思い出づくりに役立ったことがすごく嬉しかったです。
色々な事情で家を買わないという選択をしている人も、そんなふうに楽しむことができるし、ましてや荒れてしまった庭を生き返らせることなんて、相談してもらえればたくさんの選択肢をご提案できます。諦めないで欲しいです!
齋藤:そうですよね、うちの会社だってウッドデッキで鯉飼ってるんだから、ウッドデッキにプール作ることだってできちゃうよね(笑)。
石川:例えば、ご両親の時代から住まわれていて、庭に大きな木があるけど邪魔で…どうしよう…と悩んでいる方がいるとします。
もしかしたらこんなことだってできるかもしれませんよ!?
じつは私の息子が通っていた幼稚園の卒園記念に、パパ仲間30人で園庭の木にツリーハウスをつくりました。地上8メートルに2年がかりで。お父さんたちが毎週末に入れ替わり立ち替わり集まり、やっと完成したときにはすごい絆が深まって、みんなでお酒を飲みました。残念ながら保育園は10年ちょっとで移転し、そのツリーハウスは取り壊されてしまいましたが、あれは貴重な経験です。そんなわけで、ツリーハウスのノウハウにも自信ありますから、ぜひ相談してくださいね(笑)!
■最近はLEDの普及もあり、昔より庭のライティングにこだわっているお宅もありますね。
齋藤:そうそう、昔はクリスマスのイルミネーションで莫大な電気代に青くなるお客さんもいたけど、今はだいぶ安くなったからね。LEDの光は青白くて苦手、なんて声も聞くけど、今は「温白色」という電球以上に温かみのあるLEDもあるんです。
石川:かつてライティングは防犯目的で設置するのが主流でしたが、今はそんなことないです。
齋藤:庭のシンボルツリーを下からぼんやり照らしたり、門柱をライトアップしたりすれば、外出先から帰ってきたときに遠くから「あ〜自分の家についたなぁ」ってホッとできますよね。しかも、庭のライティングにまでこだわっている「キチンとした家」には泥棒も入りにくいという話も聞くので、結果的に防犯にもなるわけです。
石川:以前、クライアントの焼肉屋さんに頼まれて、道路に面した待合スペースのウッドデッキを壊し、子供が道路に飛び出さないようレンガを積んで囲いました。ちょっと味気なくなったので、レンガの一部にビー玉を埋め込んでみたんです。車が通るたびにキラキラ光り、待っている間も楽しんでもらえると喜んでいただきました。
堀越:光ってすごく人の心を和ませますよね。そういえば震災のとき、食事の配給以上に電気がついたときが嬉しかった、という話を聞きました。
■外構工事の専門家は、ただ木を植えたり塀を作ったりするだけでなく、お客さんにとっての「目に見えない価値」までクリエイトする仕事なんですね。
石川:大袈裟かもしれないけど、お客さんの歴史や人生にも深く関わっていると思っています。
もう20年くらい前になりますかねえ…。
独立したばかりで仕事があまりない頃に、ある地主のおじいちゃんに庭の手入れを頼まれたんです。おじいちゃんと毎日一緒に庭を回りながら「この木を少し切ろう」と言われては切り、「この辺の木は何本残そうか」と相談しては一緒に手入れをしていました。
おじいちゃんは近くの椅子に座って「ここやって」とか逐一指示してくれて。
私は「おじいちゃん、そこにいると危ないよ!」なんて声かけながら( 笑)。
休憩時間には一緒にお茶飲んでコミュニケーションをたくさん取りました。
おじいちゃんが年老いて弱ってくると、息子さんのお嫁さんとやりとりをするようになりました。3年くらい前に、そのおじいちゃんは亡くなったのですが、今でもそのお宅には年間30日ほどお邪魔して植木の手入れをしています。
今思えば、あの頃におじいちゃんとトコトン一緒に庭を見て周り、庭に対する想いや、そこに植っている木の歴史などを訊いていたから、今でもその庭への愛着があるし、ご家族とのご縁も続いているんじゃないかと思います。
堀越:やっぱり家に関わる仕事は、お客さんとのコミュニケーションがなくちゃ始まらないですよね。
齋藤:最初にお客さんとたくさん話すことで、庭だったら「この木だけは残してあげたいな」と思ったり、工事中に石が出てきても捨てずに移設したらいい具合に生かされるんじゃないかな、とアイデアが浮かんできたりするよね。
石川:そうですね。お客さんがいっぱい話してくれると、やる気がどんどん湧いてきます。信頼して任せてくれるのはありがたいのですが、まずはお客さんの希望や想いを訊かせていただきたいです。「こんな夢がある」「じつはこんな風にしてみたい」というロマンを語ってくれると、職人の心に俄然火がつくんです。数ある方法の中から、「それならこんなやり方がありますよ」と提案も出来ますし。職人の心が動くと、庭に温度が宿るというか。そうやってお客さんとひとつひとつ確認しあいながら一緒に庭づくりするのが楽しい。関わらせていただいたご家族の歴史を紡ぐお手伝いができることが、大きなやりがいです。
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