会議の席でしか会うことのなかった坂井さん。決して無駄口をたたかず、聞かれたことに対してのみ短く的確に答える姿に、ちょっと怖い人というイメージを抱いていました(ごめんなさい)。ところがある日たまたま帰宅の電車が一緒になり、初めて個人的にお話してみたら…そこには優しい笑顔のもう一人の坂井さんが! その日からインタビューしたい気持ちが沸々とわきあがり、ついに実現する運びとなりました♪
(聞き手/ライター花摘)
自宅から1時間半かけて電車通勤しています。出社後着替えて、前日に必要な道具や材料を積んでおいた車で現場に向かいます。よく大工さんたちに「亘さん、なんでも持ってるね〜!」って言われますが、確かに僕の車には膨大な数の道具や材料が積んである。なぜなら、現場によって使うものが全然違うから。
例えば、マンションと戸建てでは異なる材質の管が必要だし、湯と水でも違うし、現場に行ってみたら急遽予定外の工事が必要になったりするので、どんなハプニングにも対応できるようありとあらゆる道具と資材を積んでおくんです。
仕事内容はひとことで言ったら「なんでもやる」になっちゃいますが、現場にキッチンやトイレなどの設備が届く前に、その設備に合わせて水道、電気、ガスに関わる配管などを施工し準備しておきます。システムキッチンは色々なタイプがあるため、図面をみながら今回のキッチンはどこに水道を引いておけばいいかな? と考えて、管が足りなければ足すなどの対応をします。
数年前のことですが、ワンルームが30部屋ほどあるマンションの給湯器を部屋置きの古いタイプからベランダ設置の新しいものに全て交換するという案件がありました。もともと請け負っていた業者が「手間がかかりすぎて期日までには無理」とヘルプを頼んできたんです。
何が大変って、元々あった古い給湯器は内部に150ℓくらい湯をためてから給湯するタイプで、まずは全戸に溜まっている150ℓを排水しないことには作業が始められない。留守の家もありますし時間指定された家もあるので、いかに作業を効率よく進めるかが勝負でした。
さらに新しい給湯器は、その古い給湯器からもっとも遠くにあるベランダに設置するわけですから、キッチンの換気扇用ダクトを使って部屋を縦断して湯水をベランダまで引く必要がありました。
電話やネット回線の工事で、業者の人が黄色っぽくて張りのあるワイヤーを使って作業しているのを見たことありませんか? あれを使って長〜いダクト内に配管を通したのですが、ダクトは真っ直ぐとは限らないので途中で引っかかることも多く時間がかかりました。あれって手首のスナップを利かせてワイヤーを適度に揺らすのがコツなんです。その微妙な感覚には自信がありますね(笑)。職人同士の連携のおかげもあり、その案件は無事に間に合わせることができました。
いまは多能工職人として仕事していますが、じつは「職人です」と自信を持って言えるようになるまでには時間がかかりました。この仕事に就く前は、自動車会社のエンジニアとショールームのフロントマンだった時代が長いんです。職人の世界って、10代から弟子入りしてこの道何十年っていう人が多いし、イメージ通りガテンな世界なので、僕みたいに見た目からしてそうじゃない人間にとっては少し居心地が悪かった。
5、6年前だったかな。Oさんというお客さまからご依頼があり、キッチン、トイレ、外壁など結構長い期間の施工を担当しました。信頼関係がある程度できたので、続いてご主人の実家のリフォームを頼まれたんです。部屋の中の工事が多く、最初から家の中に上がらせていただくことに。ご両親にとっては初めての業者ですし、とても不安だったと思います。
息子であるご主人は都合が合わず、代わりに義理の娘である奥様が立ち会ってくださいました。その時にね「あら! この現場、坂井さんがいるんだぁ〜」「お義父さんお義母さん、坂井さんがいるなら大丈夫! 安心して」と言ってくれたんです。
嬉しかったですね。その頃から他の現場でも「坂井さんがいると安心する」と言ってもらえるようになって、やっとこの仕事に対して自信を持てるようになりました。典型的な職人ではないけれど、長い間サービスマンとしてお客さまと接してきた経験は活かせていると感じます。自動車会社の研修で、お客様に対する言葉遣いを徹底的に教わったことなども間違いなく役に立っています。話の聴ける職人って、もしかするとレアなのかもしれません(笑)。
職人としてのテクニカルな部分は当然ですが、それ以外ではお客さまとの接し方にこだわりを持っているつもりです。人として当たり前のことを当たり前にやるというのかな。
例えば、挨拶はきちんとする。作業中にトイレをお借りするなら、まずしっかり丁寧に養生する。へんな話ですが一滴の飛び散り汚れも見逃しません(笑)! もちろん最後はフタを必ず閉める。玄関で靴を脱ぐ時には、下座に自分の靴を揃えて脱ぐ。あまり知られてないようですが、昔ながらの下駄箱と昨今のクローゼットタイプの靴棚では下座が逆になるんですよ。そんなこと誰も気づかないことかもしれませんが、自分なりの決めごととして続けています。
そして作業中は常にキレイな仕事をしたい。できる限りすぐにゴミを片付け、作業に支障がなければ汚れればすぐ掃除します。お客さまの住まいに上がらせていただくのだから、よく考えれば当たり前のマナーです。僕たちはお宅にお邪魔するけれど、決してお客さんではありませんから。
それから仕事への姿勢というほどではないけれど、仕事を仕事としてみています。プライベートと仕事ははっきりと切り替えているので、もしかすると会社を一歩出たら、花摘さんの言うように「同じ人とは思えない」ほど別人に見えるのかもしれませんね。これは僕なりのプロ意識というか、心身を健康に保つ秘訣というか。休日ですか? とくに人に言えるようなたいそうな趣味はないですけれど、奥さんと川沿いを2時間くらい散歩することかなぁ。
Copyright © Yokohama-home-staff.inc.